| 『ちゅらさん』を想う | 『ナビィの恋』の小さな感想文 |
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NHK朝の連続ドラマ『ちゅらさん』が終了した。歴代の朝ドラで、これほど心をとらえた番組はなかった。 |
『ちゅらさん』とはどんなドラマだったのか、他のNHK朝の連続ドラマと比較すると、どのような特徴があったのか?
『ちゅらさん』の最も大きな特徴は、強いストーリー性がないという点だろう。朝ドラは、基本的には女性が主人公であり、その内容は、女の一生を綴った一代記(代表的なものでは『おしん』)や、女性の人格的・社会的成長(職業的な面でのキャリア・アップを綴る)もの(『ふたりっこ』など)が多いように思う。
これに対して『ちゅらさん』は、明確なストーリー性はあまり感じられない。確かにストーリーそのものはある。幼い日の小浜島での上村家との出会いと別れ。ヒロイン”えりぃ”の上京、看護婦を志し、和也と再会、結婚、小浜島への転居……。つきつめれば、第一週で放映された『美ら海の約束』をベースとして、その輪郭をなぞる構成となっていて、強固なストーリー性でドラマを引っ張るという感じではない。
劇中、城之内真理亜がえりぃと和也をモデルにしたメルヘン小説を出すが、逆にいえば、このドラマのストーリーが、シリアスで現実的なものではなく、どこかメルヘンな輪郭を持っていることを示しているようにも思う。それでは、『ちゅらさん』を支えているものは何か? 明確なストーリーを持たない『ちゅらさん』だが、私を含めて、「こんなに”はまった”ドラマは今までなかった」と感じた人は少なくないと思う。
ここに『ちゅらさん』を他の朝ドラとはまったく異なる魅力を持たせた要因があると思われる。
それは、次に述べる『ちゅらさん』のテーマと大きく関わっていると思う。
(1)生命の尊さ
『ちゅらさん』のテーマとは……私が感じたところでは「生命の尊さ、人と人とがふれあうことの大切さ」ではないかと思う。そしてこのテーマこそが『ちゅらさん』の展開の軸であり、魅力でもある。
”明確なストーリーはない”と前述したが、”生命の尊さ”という軸で見ると、各エピソードが繋がってきて、軸を成す。第一週の『美ら海の約束』をベースにして、一風館時代の島田さんの入院と看護。城之内真理亜の入院、えりぃ自身の手術……。
いみじくも、おばぁ(平良とみ)が第一週で幼いえりぃと文也に言った「命どぅ宝」(=命こそが尊い)という言葉……。『ちゅらさん』というドラマは、このおばぁの言葉の上を廻っていたように思う。まったく個人的なことではあるが、私は第一週の「美ら海の約束」を見ていて、涙ぐんできてしまった。この週は小浜島の風土が美しく、時に神秘的にも映される。
この第一週では、幾つかの印象的な場面がある。
島でお墓参りをした和也はおばぁに、最初は「死ぬのは怖くない」と言っていたが、やがて「本当は死ぬのが怖い」と告白する。おばぁ「それで良い。死ぬのが怖いのは当然だ。和也君のような若い人が”死ぬのが怖くない”なんて言ってはいけない」と言う。
そして、和也が亡くなった後、えりぃと文也に「和也君のような子は命の尊さを教えるために神様に選ばれたのだ。命どぅ宝、命こそが大切だ」と告げる場面……。
一つ一つの場面の印象は強烈だ。この強いメッセージが感動を与え、『ちゅらさん』を構成していったのだと思う。(2)人と人とがふれあう大切さ
一風館の住人・島田大心は、訪ねてきた息子に懇願され、一度は一風館を出て行く。このときに他の住人達に贈った手紙の内容は感動的だったが、ヒロイン・えりぃに宛てたものには、原作者の強い思いがこめられているように思う。「君(えりぃ)は、人と人とが接することの楽しさ、素晴らしさを思い出させてくれた」
私達は日々の暮らしの中で、素直な人と人とのふれあいを忘れがちになっている。本当は人と人とのつながりこそが大切なのに、わずらわしい人間関係に嫌になったり、避けたりと……。しかしながら、日々の生活に歓びと潤いを与えてくれるのは、ごく素朴な人と人とのふれあいではないかと思う。
番組では、この「人と人とのふれあい」もまた一つの軸になっている。「生命の大切さ」がドラマを締めるメッセージとすれば、「ふれあい」はドラマを展開させ、見ている人をも幸福な気持ちにさせる。古波蔵家と島袋君、一風館、ゆがふ、北栄総合病院の面々……。それぞれが楽しい人間関係のグループを成すが、それがさらに互いに関わり、さらに楽しい場面を演出していた。さらにはやや複雑な人間関係をも包み込んで行く。
文也をめぐり、えりぃに攻撃的だった西宮遥もえりぃと最後には親しくなり、またゆがふの常連にもなっている。
さらに、文也の母、静子も本来は複雑な心境のはずだ。息子の結婚相手(と家族)は、もう一人の息子の死と関わった人々だ。ドラマ中でも、小浜島を話題にしたくないような場面がしばしば暗示されていたと思う。彼女なりに昔の悲しい思い出を乗り越えようとしていたが、さすがにえりぃとその息子の小浜行きには反対してしまう。
最後には静子はえりぃを理解し、支持するようになる。現実にはなかなかこんな風にはならないかも知れないし、理想論かも知れない。でも、こんな風に心に抱えた傷を乗り越えて生きていけたなら……という希望、理想を表現し、過去にとらわれたりするよりも、もっと楽しい生き方があることを示しているのだと思う。番組の最後の方で、和也(えりぃの息子の方)が対人関係の中で心に傷を追い、自閉的になってしまう。そしてえりぃも和也の心の病をなんとか治そうと、自分の病気を後回しにし、看護婦を辞めて、小浜島に行ってしまう。このエピソードと成り行きは少し唐突なようにも感じたが、作者としては、「人と人とのふれあい」を明確に浮び上がらせたかったのかも知れない。
島田大心は、訪ねてきた息子に一風館の面々を「今や私の家族ともいえる人たち」と紹介していた。いみじくも、『ちゅらさん』全体の人間関係を象徴しているようにも思う。
3.出演者について
(1)沖縄の風土
沖縄をテーマにしたともいえる『ちゅらさん』。ドラマの魅力を際立たせたのもまた沖縄出身の俳優さんたちだったと思う。その代表格は平良とみ。映画『ナビィの恋』で一躍有名になった沖縄を代表する女優だが、『ちゅらさん』の出演で、普段映画を見ない人々までに広くその魅力を知らしめた。『ちゅらさん』のあのドラマ全体の雰囲気というのは、平良とみが醸し出していたのだと思う。その意味では、ドラマの雰囲気とテーマを象徴する最重要人物だったと思う。
平良とみ扮するおばぁは、第一週以外にも大好きな場面がある。上京し、真理亜を伴って北栄総合病院に行く場面、妊娠中のえりぃに付き添って那覇までやってきた柴田とペアルックにサングラスで登場する場面……。こんな感じを出せる俳優はなかなかいないと思う。さらに、ゆがふ店長の藤木勇人。えりぃの魅力もまた沖縄の風土に根ざした明るさ、人懐っこさにある。上京してきたえりぃを支え、東京の中での沖縄的空間を作ったのがゆがふであり、店長に扮した藤木勇人の雰囲気と演技だったと思う。藤木の存在が、国仲涼子がえりぃとして演じ、出す魅力・個性を支えていたと思う。
特に藤木の個性が発揮されたのは、えりぃがゆがふでのランチを始めた頃だった。ドラマ全体を通して番組にスパイスを振りかけた藤木だったが、このあたりが最も光っていたのではないかと思う。(2)クールで強い女たち
暖かい雰囲気を持った『ちゅらさん』だが、結構クールな雰囲気を持った女性も登場する。城之内真理亜(菅野美穂)、西ノ宮遥(小西真奈美)、さらに姑の静子(真野響子)も本来はこの系列に属していたのかも知れない。このクールな女たちが、えりぃと対称的に描かれることが、ドラマの個性を際立たせていた。さらにこのクールさがやがて沖縄の雰囲気に融合してしまうところも見せ場の一つだったかも知れない。
妹を亡くした真理亜は、クールに徹しているように見えて、実は暖かいものにあこがれている。メルヘン作家であるというのが、まずクールさの裏返しであるし、えりぃのペースにすぐに乗せられてしまうところも、本来彼女がクールではないことを示しているのではないか。その上辺とは裏腹に行動と言葉には時折優しさが覗く。
えりぃがゆがふでランチを始めたとき、「ゆがふの店長は、金儲けをしたいと思ってあの店をやっているのではない。沖縄の人に故郷にいるように楽しく過ごしてもらいたいと思ってやっているんじゃないか」と言ったが、クールなだけではなかなか口に出てこない言葉だ。
さらに傷心のえりぃを小浜島に誘ったのもなかなかの心遣いだ。もっとも、小浜行きは自らの取材旅行も兼ねるというちゃっかりした面もあるようだが。えりぃの恋敵役として、最初は損な役回りだった遙。美人だが、秀才で、冷たくて……と、一面嫌味な部分を集約したような役だった。だが、最後にはゆがふの常連になり、小浜に向かうえりぃを抱きしめ、最終回では古波蔵荘を訪れている。演じた小西真奈美は、国仲涼子とは対称的な顔立ち、雰囲気の女優だが、なかなか良い雰囲気を出していたのではないかと思う。
静子に扮した真野響子。第一週では悲劇的な雰囲気を漂わせていた。無人島の浜辺で遊ぶ和也を泣きながら写真に収めていた場面は深く心に残った。えりぃの姑として再登場した後は、コミカルな雰囲気を出していたが、これもまた、第一週の演技が効いていたように思う。この三人はクールだが、それだけでなく、結構強い女性なのではないか? 考えてみれば『ちゅらさん』の女たちは強い。沖縄の力を感じさせるおばぁと古波蔵家における勝子を筆頭に、キャリア・ウーマンの池端容子、芯は強そうな桐野みづえ、北栄総合病院の歴代婦長とナースたち。
強くて活動的な(又は社会的にキャリアを積んでいる)女たちに比べ、男は……というと、古波蔵家の恵文を筆頭に、優しい柴田、人の良いゆがふの店長、ソフトな雰囲気の文也、恵達……。
「強い女と優しい男」。これもまた『ちゅらさん』の重要な一要素のような気がする。
4.最終回に寄せて……主人公を取り巻く人々
『ちゅらさん』最終回では、それまでの登場人物が小浜島の古蔵波荘を訪れ、えりぃをいかに支えてきたか、エピソードを交えて話す。人と人とのふれあいとは、お互いに支えあうこと……。この意味では、いかにヒロイン・えりぃが周囲の人々と関係を築いてきたかが振り返られる。考えてみれば、こんな最終回を見せた朝ドラは無かった。人と人とのふれあいがテーマであったことを如実に示していると思う。
この場面で”おばぁが1番だ”ということになるが、もう一人、えりぃに決定的な影響を与えたのは、亡くなった和也君ではないかと思う。和也君がいなければ、えりぃは生命の尊さをこれほどには深く感じ取らず、看護婦にはならなかったかも知れない。また、文也と結婚することもなかっただろう。えりぃに決定的な影響を与えたのは、おばぁと和也君。
まさしく、第一週の『美ら海の約束』に「生命の尊さ、人と人とがふれあうことの大切さ」が集約されていたことになると思う。私個人の感想だが、目立たないようでいて、島田大心の存在は大きかったのではないだろうか? 島田さんが倒れ、えりぃは彼との交流(島田さんが次第に心を開いていく)を通じて看護婦への道を志した。島田さんがえりぃの受験勉強をバックアップしてくれたこともある。また、島田大心の発言は私には印象的なものが多かった。えりぃに最も影響された(?)人物だったのかも知れないし、作者の感情が移入し易い人物だったのかも知れない。
最後に平良とみさんのメッセージが流れた。「『ちゅらさん』を忘れないで。沖縄を忘れないでね」
最初は朝ドラへの出演を固辞したが、沖縄のためになるなら、沖縄の良さを知ってもらうためになら、と出演した平良さん。彼女の『ちゅらさん』出演を通じての願いが込められたメッセージのようで、心を打たれるものがあった。
『ちゅらさん』を想う 『ナビィの恋』の小さな感想文